壱岐の女 パート Ⅰ

毎週 行きよった

西通りの 「びそっぷ4343」 ってスナック

ぞっこんやった 「ゆかちゃん」 が辞めたあとは
「リサちゃん」 がナンバーワンになった

綺麗な女やったよ

まあ、完全なる面食いのオレとしては
その後 リサちゃんの争奪戦で忙しかったんやけど

ある時

女ばかりの隣のボックスからコースターが回ってきた

「かっこいいですね」 って

ボールペンで 書いてある

オレは「嘘やろ〜!」思うて

「これ書いたん だれだれ〜?」

って叫んだら

「あたし〜」 って手あげたやつ、、、うわ、めっちゃ美人やん!

てわけで 

その日のうちにオレんちに連れ込んで
朝方 こそ〜っと送りよったら親父にバレて 怒られて

まあ、映画でも(キングコングやったかな?)観に行って
しばらくは付き合ってたんやけど

そいつ壱岐の女やったんよね

当時、ていうか今でもそうかも知れんけど
壱岐対馬から福岡市へは たくさん就職で来るわけよ

で、なんつーか

島の女は気風がいいし、男前な女が多くてさ
オレの 一番好きなタイプなのよ

だけど ある時 女が言いだした

実は、お母さんの具合が悪くてもうすぐ帰らなきゃいけない、、、

博多では お婿さんを捜して連れて帰りたかったんだと
なんでかというと 実家が漁師で

後継ぎがいないんだってさ

「だけん、ぶっちゃけで言うけど、あたしと壱岐に来て!」 

って言うのよ

そりゃあね

儲かるんだったら 漁師もいいかも知んない
水泳部やったから、海には自信もあるにはあるし

オレが30歳ぐらいなら 考えたかも知れんけど

まだ19やったからオレ
あと5年は遊びまくってやるって決めとったもん

だけん 気持ちは嬉しいけど 

絶対いやばい〜って、壱岐やら な〜もないとこやろう?って
めちゃくちゃ冷たく言ってしまってさ

それからは電話かかってきても 忙しいやら言うて
なんとなく 自然消滅モードで

久しぶりにスナックに行った時に
「ああ〜あの娘、一人で壱岐に帰ったってよ〜」って聞いて

やっぱちょっと切なくなって

壱岐に抱きしめに行こうかなぁ、、、なんて
一瞬マジで思ったのよ

思ったけど、できんやった

そんな人生の決断は くそガキには重すぎたね

あいつと最後に言葉をかわしたのは
城南区の喫茶店やったと思うけど

最後まで あいつは泣かんやった

かっこいい奴やった

これはオレの想像やけど
今やつは 二つ上だから54歳になってるよね

多分、真面目で堅い亭主が漁に出てる

ガキは三人ぐらいいて 犬も猫もいる
獲れたての魚が入った うまい味噌汁を作ってんだろうなぁ

波止場では 網の手入れをして
真っ白い歯で ケラケラと笑ってるよ。