土曜の夕方
社内で見積書ば作成しよったら
出先の課長から 電話があった
「おう、7時ぐらいに中州の交番前で どうや」
「お疲れ様です!はい、分かりました」
当時は車で中州出動よ
いつもの 「千代の花駐車場」 に入れて
オレが着いたのは 6時45分やった
「おお〜、すまんすまん!」
少し遅れた課長は 得意先のダイエーの主任も連れて来た
領収書ば会社に回そうていう魂胆やね 抜け目ない人ばい
はじめ、魚料理で満腹したオレらは
さっそく スナック・ドーベルの重いドアを開けた
課長とダイエーの人が マスターと野球の話をして盛り上がって
なんとなく オレを一人にした気遣いを感じてると
白いドレスを着た T が ちょこんとオレの横に座った
「お、おう 久しぶりやね」
「来てくれたんだね、相変わらずカッコいいやん」
お世辞抜きで T は綺麗やった
なんか 物珍しそうな瞳を 真っ直ぐ向けやがる
度胸もついたんやろ 何があったか知りたくなった
「なんで、そういう風になったと?」
「う〜ん、今のあなたには関係ないと思うけど、、、」
あちゃ〜っ やってもうた
なんか責めたように聞こえたんかも知れん、、、
「あん時は、、ごめんやったね、、」
「ううんぜんぜん、あれから考えたけど
あなたには遊びで、子供のあたしが夢中だったってこと」
なんだか
楽しい思い出を語るような笑顔で
T はさらっと言うのよね
この三年で オレは何も変わらず
あいつはオレより精神的に上に立ってる気がしたよ
気まずいけど
なんか 背中の氷が溶けていくような
気持ちのいい雑談が 続いて
T は、自分から告白しはじめた
あれから彼女は
新しい男ができて、また社会人で
その男の飲食店を手伝うために 高校を2年でやめて
だんだん経営がうまくいかなくなって
自分も夜の稼ぎに出たらしい
「あのバカ親父が口もきかんから
最近はずっと 家にも帰ってないとよ〜」
ってさ 笑っちゃってるよ
話は深刻やけど、幸せそうなんだよな
白い指が
何度もオレのグラスに伸びて
カランカラン と 水割りを作る
オレはひたすら飲みよった
オレはまだ、必死で働いたこともねえ。