酔ってさまよう

社会人になった男は
酒ぐらい強くならんと はじまらんめ〜もん

ていうのが まあ

九州人っていうか、昭和の掟というか
そんな感じの空気が 当時はあったからね

今でこそ パワハラとか何とかで
強制的に酒を飲めっていうのも ダメなんだろうけど

あの頃は進んで吐くまで飲んで
自分を鍛えたもんよ

ある日

城南区にある本社の宴会に 飛び入りで呼ばれて
いつものごと注がれるものは全部飲み干して 

そういや18〜19のあの頃 
どのくらいで酔ってたんだろうね

ビール2本と、酒五合ぐらいで酔ってたんじゃないのかね
酒が強い中年の先輩が えらいカッコよく見えたもんだよ

まあとにかく 

完全に出来上がってもうて

二次会のスナックでは記憶も飛び
先輩に絡むわ 下ネタ連発するわで帰れと言われ

「お疲れっしたぁ〜!」

って叫んで

オレはどっかへ走り去ったらしいのね

だけん あんまりハッキリは覚えんけど

多分オレは 
ラーメン屋ば探して歩き回ったっちゃないかいなと思う

そして多分 道路に寝そべって コーラ飲んだり
ドブにゲロッたりしながら

ゾンビのごと さまようたと思うよ

そんで 

なんとなく白いビルば見て
これは 美容学校の女子寮ばい! って思った

ここは以前から会社の近くなんで オレ知っとったんよ
門は でかい鉄の扉があるけどさ

オレの頭ぐらいの塀を乗り越えれば
広い芝生の庭があることも 知っとった

よっしゃぁ〜! 思うたばってん

グルグル回るし、まっすぐ歩けんし

ガードレールに ゴキッってなって
塀に行こうとしたら また電柱にゴキッってなりながら

やっとの思いで塀ば乗り越えて
芝の上に ドサッって 落ちたわけよ

そしたら急に

女の子たちが窓ばガラッって開けて

「えっ、なになに? 誰か入ってきんしゃったよ〜!」

「あなた誰ですか〜? ちょっと先生〜!」

みたいな騒ぎになって

あれ

夜中の2時頃だろうと思うけど
7〜8人に取り囲まれてね

なんか、中年女性の先生らしき人に職務質問的なことされて

「あっ、ちっと、、その、怪しいもんやないっす、すんません
    この近くの会社のもんっす、、、入り口間違えて、、その、、」

なんとか かんとか言うて
ほんとすんません! ほんとすんません!って

土下座に近い格好で謝ってたら
しぶしぶ、分かりましたって言ってもらえてね

今回だけは警察に通報せんけど
二度目はないぞと言われ、免許証やら確認されて

女性多数の ど軽蔑な眼差しを体中に浴びながら
鉄の扉から 帰して頂きました

あれ以来

その女子寮の前を 一度も歩いたことないのは
言うまでもありません。