卒業式 其の二

最後のホームルーム

オレら

井上先生のために
バラの花束と ジャージの上下ば用意しとった

先生は、しみったれた挨拶やらせんで
男はしっかり働けって 言うだけで

最後に こう付け加えた

「おまえ達には散々 手をあげてきた
  男が他人に殴られるということは 悔しいものだ
    そうとうに 腹にすえかねているだろう
   
   私に殴られた者で、納得がいかなかった者は
    今から殴られたぶん 殴り返してもらって構わない。」

一瞬 

教室が静まりかえって
まじめな連中が オレらの顔色ば見はじめた

オレ、カッコいいこと言うね〜て思って
目で合図ば送ったんよ

プレゼント! 今じゃねえのかって

そしたら ダチの H  がガタンって席ば立って
続いてヤンキーが 一斉に席ば立ったもんやから

先生も父兄も 

大乱闘かと思って、ビクッってなったんやけど

「先生! 今まであざ〜した〜っ!」

つって 花束とジャージ渡して
ヒューヒュー! やら アホーやら シネーやら
大合唱になってもうて

鬼の井上って呼ばれた先生でも
ちょっと 泣いちゃったんだよね

やっぱ あの人は男らしい いい人やった

殴られた当時は この野郎って思ったけど
なんか全部 いい思い出になったよ

あれから 一度も会ってないけど

風の便りでは

いつも学年主任どまりで
ついに教頭には なれんやったみたい

生きてたら

80才ぐらいかな。