かっ飛びくん 其の一

まあ いろいろあったけど

冬休み返上で

学校に呼ばれて 補充授業もやって

オレらも やっと三年になれた
昭和54年やった

あの頃 2年に 

N って後輩がおってねぇ
宗像か どっかのやつで

そげん 好きなタイプやないけども
妙に オレに なついて来るやつやった

「先輩! 一緒に帰っていいっすかぁ〜」

って いつもひつこいんよ

N のあだ名は 「かっ飛びくん」

その名の通り 

バイクに乗せたら 怖ろしく速いわけ

そいつ 

喧嘩も女も酒も博打も まったくダメ男で

へらへらした普通〜のガキのくせに
やたらとモーター関係には 才能があって

バイク盗んで乗り捨てて 池に放り込むし
車のタイヤ、ホイール、コンポ、は 盗んで売るし

改造の技術も ズバ抜けとるという
ある意味 くそ悪ガキで 

そんで キチガイのごと 速い!

なんか、GXか GRか よう知らんけど
400のバイクば おもちゃのごと乗り回してね
天才やったんやろ 多分

けっこう 
名前は売れとったはずよ

街道レースで 負けた事なかったんやないかな
カーブで体ば倒して シュ〜ンと飛んでくらしい

「おまえ、たこ焼き食うや?」

N は 金持ちの息子やったばってん

一緒に帰るんやったら 
先輩がおごらないかんやろ

そういうのも ちょっと面倒臭いよね
つや〜に コーラも飲みやがるし

「おまえ、バイク飛ばすとはいいばってん、人撥ねたり
  やりかぶったりしたら 人生終わるけん気をつけれよ」

「あっ、はい ありがとうございます!」

N は めちゃくちゃ明るい 

165センチぐらいで 
童顔で 可愛い顔やった

「追い抜いた暴走族の兄ちゃんに 殴られたりせんとや?」

て 聞いたら

「だって 誰も僕を捕まえられませんもん」

って言って 笑った

いつ レーサー並のテクニックば覚えたんやろね
まさに 風小僧やなぁ〜って思いながらも

現実 誰も捕まえられんという事は

信号無視で 突っ走る度胸がないと できんこと、、、 
とも思ってみると ちょっと ゾッとするよね

こいつ ヤバイなぁ

というのが 

オレの正直なところやったね


続く。