ひーじいさん 死ぬ

高二の冬っていえば

田宮二郎が猟銃自殺して
日本中が 騒然となったよ

オレ まだ16で 

金も持っとるわ 女にもてるわの 人間が
なんで自殺やら せないかんとか

さっぱり理解できんで 困ってしもうた


そんな時

ひーじいちゃんも 88才で死んだ

じいちゃんは 
大日本帝国陸軍の 大佐やった人で

自宅には 勲章やら馬上の写真やらあって
こっそり日本刀も 見せてもらったことがあったんで

オレの中の 「ヒーロー」 やったねぇ
大好きやったんよ

戦後のじいちゃんの職業は 植木屋で
八幡の 小高い丘に でかい家があった

庭に 鯉やら金魚もおって
見事な盆栽も いっぱいあったし

何より 

植木用の道具が 危なそうで、魅力的で
あそこ行くと 楽しかった記憶があるね

ちょび髭で 丸メガネで 五分刈りのじいちゃんは
性格が いたって豪傑で 

ポンッと 5000円くれたりする
当時の5000円って でかかったんよ

そんで

女房にも 外にも子供がおって

みんな 面識があっても
まったく悪びれず ひょうひょうと生きとんしゃった

ばってん 

70代後半の頃やったか

植木の道具ば手入れする
大型の研磨機械に はさまれてね

手の指の一部と あごの骨が砕けて
大手術になったんやけど

また ひょうひょうと退院してきて

「べつに どうってことないよ、、」

って 笑いよんしゃったね

いやあ 鉄人やったし
この人は ず〜っと生きとると思いよったんよね

でも やっぱ死んだ

そん時 強烈に印象に残っとるんは
通夜での どんちゃん騒ぎやった

昔の通夜って そうやったよね

死んだじいちゃんが宴会が好きやったから
派手に飲んで 思い出ば 語ってやろうってわけで
オレまで ガンガン飲まされて

今日は煙草も吸うてよか! って なったり

そのうち おじさんが酔っぱらって
泣き叫んだり 誰かが吐いてしもうたり

ちゃちゃ くちゃら(じいちゃんの 口癖) で

翌日の葬式は

じいちゃんの死に顔も 蝋人形のごと白かったけど
オレらも 青い顔で参列したもんだ


山奥の 

古い火葬場は 不気味で 寒かった
昔は 誰も来んような場所にあったんよ

そこで働く人も
わけありって 感じやったよね

じいちゃんのお棺が 窯に押し込まれて

ガチャンと扉が閉まった時 「うっ」 ときて
火が付く ボッていう音がした時 「びくっ」 ときた

待合室は 古い日本家屋で

木のガラス戸が ガタガタ揺れて
オレらは でかい石油ストーブの周りに 座って待った

「焼けるとが えらい遅いね〜」

嫌いなおじさんが 煙草ば何本も吸うて 言うんよ
うろうろ動いて せわしないわけ

こんなやつは 会社でもこんなやつよ きっと

「裏から 焼けるとの見らる〜らしいばい」

違うおじさんが 言う

人が 悲しみに包まれとうとに
決まって こういう無神経なおっさんも おるよね


じいちゃんの骨は

年のわりには 太くてしっかりしとった
けど、 やっぱ骨だけになっとる

ふ〜ん そうなんだな
こうなるんだ、、、なんて

オレは多分 こん時 初めて 
「人が死ぬ」 ということを 理解したと思う

それまでに 葬式は何度かあったにせよ
ガキやったから 分からんやった

オレは

16ん時 じいちゃんの骨ば見た時から 
なんとなく今まで

まるで 宗教に興味がない

死後の世界なんか ないと思うし

手を合わせるとすれば
それは 太陽やったり 海やったり 空気やったり 

そう自分で勝手に 思うとるんよね

どんなに暴れまくって 豪快に生きたっちゃ
死んだら 骨になる、 土に返るだけ

そう 思うとるね



* 失敗が重なって
  神様って思うことも あるけどね。