「失格」  其の二

オレは

今まで練習してきた努力ば 無駄にしたし
うちの高校のツラに 泥ば塗った

先輩も先生も 呆れて もの言えん状態よ

オレは 大切にしとるはずの
自分のプライドば 傷つけた

一番嫌いな 「ドジ」 やってしもうた


カッコ悪過ぎよ、、、

しばらく便所で 悔し泣きして

落ち着いてから 戻ったばってん
誰とも 口ばきかんやった

家に帰っても 口きかん

女の電話にも 出らんやった


オレ その夜

布団の中で決めたんよ

明日 もう一本の 男子200メートル予選
死ぬ気で 泳ぐ!って

今夜は ズリセンも かかんぞ!って

そうやって
自分ば救ってやらな しまえるぞ ってね


そんで翌日

オレは 何かに憑りつかれたごと なって

ダチと口もきかんし 煙草も吸わんし
朝立ちだけは ギンギンやし

「プログラム〜23番、男子200メートル予選を 行います」

みたいな 場内アナウンスが流れたら

「よっしゃぁ〜!」 言うてね

第五のコースに 仁王立ちした

ああいう時って 緊張やら全然ないよ

もう 燃え上がる怒りが支配しとって
目の前の水ば 200メートル進むことしか考えてないもん

よ〜い パ〜ン!

オレは ぶっ飛んだ

ペースもくそもない 最初からぶっ飛ばして
50のターンまで トップやった

国体に行く選手より先に出とるのも 分かった

背泳ってのはね 
スピードが乗ってくると 顔の横に波の壁ができるんよね

気分が良かったなぁ〜

それでまあ 終ったら3着やったけど
自己ベストも更新して 県大会の出場もとれた

それ 二度と出ない奇跡の自己ベストやったんよね

オレ 体力ば使い果たして
自分でプールから上がれんで

F に引き上げてもろうたぐらいやもん

テントじゃみんな ようやったって
言ってくれてね

県大会は ブリジストンプールに行けるぜって
肩ば 叩いてくれた


そん時ね

自分の腕に光る 水しぶきが
コロコロと 光って

ホントに綺麗やった

なんか それ見た時
自分ば 許してやろうかって

思ったよね



続く、、、。